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STORY
100のお題
暇な午後


日差しはポカポカいい天気。かゆいノミどもを黙らすにはうってつけ。
ぼくの毛並みをなでてくきもちいそよ風も、ふかふかに触れてきもちいんだろう。
通り過ぎてはまた吹いて、お花をあおいではまた通り過ぎていく。
あおられ飛び立たったちょうちょうにしっぽをふりふり付いて行く。
羽を休めた隙を突いて一気にがばっとに捕まえた。
だけどちょうちょうはぼくの体の隙間から、ひらりと空に逃げていく。
それを目で追いかければ、どこまでも続く青い空。
きっと『のどか』というのは今日の日のためにできた言葉だ。
そんなことを考えながら、くあっ…とあくびをしていると、どこからか草を踏む音が聞こえてきた。
その子ははじめて見る子だった。
真っ白な体に大きな瞳。少し機嫌悪そうに顔をしかめて歩いている。
こんな平和な昼下がりになにがそんなに嫌なことがあるんだろう。
不思議がって見ていると、ふとその子がこちらを向いた。
「なに見てんのよ」
あらま、本当に機嫌が悪そうだ。
「いやあごめんごめん。あんまり怖い顔をしてるから」
弁解したつもりだったんだけど、なんだか怒っているみたい。目を吊り上げて近付いてくる。
「あなたわたしを怒らせたいの?」
「もう怒ってるじゃないか」
思ったまま言ってるんだけど、なにがそんなに気に障るのか、彼女を余計怒らせてしまったらしい。
「わたしは今機嫌が悪いの。あんまり頭にくること言わないでくれる?」
「ぼく頭にくること言ったかなあ」
彼女はまた何かを言おうとして口をあけたけど、ちょっとの間かたまって、それから大きくため息をついてそっぽを向いてしまった。
そして離れていってしまう。
ぼくはその後を追いかけた。
「ねえ、どうして機嫌悪いの?」
彼女は足を止めることなく顔だけこちらに向けて、さも嫌そうに応えてくれた。
「ついてこないでよ」
それでもぼくはついていく。
「ねえってば。何か嫌なことでもあった?」
今度はぼくの顔も見ず、ぶっきらぼうに応えてくれた。
「あんたに関係ないでしょう」
それでもぼくはきき続ける。
「嫌なことはさ、吐き出しちゃえば楽になれるよ。ねえ何があったの?」
いよいよ彼女は応えてくれない。
どうして?なんで?と繰り返しながら、揺れる尻尾についていく。
「あーもううるさいわね!」
何度目かの質問でやっとこっちを向いてくれた。
「なんなのあなた。いいかげんにしてよ」
「ぼくはナゴだよ」
「そんなこときいてるんじゃないの。あなたなんのつもり?」
「なんのつもりって・・・」
ぼくは少しだけ考えて、いちばん妥当な答えを言う。
「なんでご機嫌斜めなのかきいてるつもり」
「どうしてわたしが見ず知らずの相手にそんなこと言わなきゃいけないの?」
「どうしてって・・・」
ぼくは少しだけ考えて、考えて、考えたけど・・・
「どうして?」
きき返すことしかできない。
そんなぼくを見て、彼女は大きくため息をついた。
それからその場にお座りして、土手から川を見下ろして言ったんだ。
「いいわよ。教えてあげる。わたし、暇なの」
やっと答えてくれたけど、またもやぼくにはクエスチョン。
「暇?」
「そ、暇。暇で暇で仕方がないの。それだけ。分かった?分かったらもうついてこないで」
彼女はまた去ろうとする。ぼくはその横顔を呼び止める。
「分かった。分かったけど・・・」
「なによ」
「どうして暇なの?」
今度は彼女が考えた。
「だって、なにもないじゃない。どこを見ても草原だし、ちょっと歩いても森や川しかない。あなたは暇じゃないの?」
そしてぼくも考える。ヒントを探して辺りを見る。そよ風に揺れる植物たち。その中で、ひときわ目を引くものがあった。
ぼくは川原へ駆け出す。それの場所までたどりつく。振り返ると、あの子は怪訝そうな顔でこちらを見ている。
ぼくはそれを手に取ると、口にくわえてまた駆ける。彼女のとこまでたどりつく。
手に持ちかえて、それを振り、そよ風よりも大きく揺らす。
「・・・なに?」
「ねこじゃらし」
「見れば分かるわよ。なにがしたいの?」
「楽しくない?」
彼女はしばらくねこじゃらしを見ていたけれど、首を振って答えた。
「ぜんぜん」
おかしいなあ・・・と呟いて、ぼくはねこじゃらしを彼女に差し出した。
すぐには受け取らなかったけど、おそるおそるといった感じでねこじゃらしを手にしたくれた。
しばらく見つめてから、ゆっくりそれを振ってみる彼女。
誘うようなえのころぐさの動き。ぼくの体がうずうずしだす。自然と前足が構えだす。そして・・・
にゃんっ!
一気に腕を伸ばした。
ねこじゃらしは軽やかに攻撃をかわす。
にゃんにゃんっ!
今度こそ捕まえられたと思ったが、するりとすり抜けていくねこじゃらし。
するとねこじゃらしの行動パターンに変化が現れた。
遠ざかるねこじゃらし。
逃がすまいと飛びつくも、ねこじゃらしは上手にはねてかわす。
こいつ、できる・・・!
そう直感したぼくは本気モードに突入した。
両前足を使っての追撃。
まるで生きているかのように動くねこじゃらし。
地を這うねこじゃらし。
空を舞うねこじゃらし。
半ばむきになって、前足を大きく広げるとぼくはそれに飛び掛った。
抱きしめるように腕を振るう。
だが、やつはあざ笑うかのように高い位置へと逃げていった。
ぼくをおそう敗北感と、なぞの浮遊感。
芝の地面に落下したぼくは、そのまま斜面をころがった。
空と大地が交差して、最後に見えたのは空だった。
大の字で寝転がったぼくの前を雲がゆっくり横切っていく。
しばらくぼおってしていると、頭上から駆け下りてくる足音。
「大丈夫!?」
彼女の声だ。ぼくと雲の間に、雲みたいに白い彼女の毛皮がわり込んだ。
大丈夫。体はぜんぜん大丈夫。だけどぼくの胸は未だにどきどき言っている。
「ねえってば」
彼女がぼくを揺さぶっている。どうしてか、おかしさが口を突いて出た。
「うふっ、うふふあはははは」
そんな不思議そうな顔で見られても、おかしいものはおかしい。
ぼくはぼくの肩に置かれていた彼女の前足を握ると、起き上がって彼女を見た。
「やっぱり楽しいじゃん!」
彼女の口から「へ?」と声が漏れる。きにせず腕を引っ張って、ぼくは芝生のスロープを駆け上る。
「ちょ、ちょっと!」
戸惑う彼女もぼくに引っ張られて駆け上がる。
頂上まで上ると落ちているねこじゃらしを拾い上げた。
「あ、ごめんなさいわたし、調子に乗っちゃって・・・」
「もっかいやろ!」
「え?」
つかんだままの彼女の手にねこじゃらしの茎を握らせる。
ちょっとばかしためらってから、まるでリボンを踊らせるかのような優雅な手つきでそれを降り始めた彼女。
ぼくは餌に釣られる魚のように本能のままに飛び付く。
ふと、揺れるねこじゃらしの向こうに、見違えるほどにこやかな彼女を見た。
それは鮮やかな風景にとてもきれいに映えていたんだ。
僕の視線に気付いてか、ねこじゃらしを振るう彼女の前足の動きが止まった。
透き通る眼差しがぼくの顔を見つめている。
ぼくはいわゆる糸目だから、きっと彼女は気付いていない。
今ぼくの目線の先がねこじゃらしの方にあることを。
「隙あり!」
ねこじゃらしは見事ぼくの肉球に捕らえられた。
「あっ」
と彼女が言ってる間にそれを素早く奪い去る。
彼女は取り返そうと前足を伸ばしてくるが、それをひょいっとかわしてやる。
こうして立場は完全に逆転した。
そよ風に助けられ大いに揺れるねこじゃらし。
取られそうになっても、高く上げてしまえば彼女の背では届かなが、それでも必死にジャンプして取ろうとしてくる。
その様子が楽しくて、後ろへ下がって逃れながらもつま先を立ててどんどん高くしていく。
しばらくは悪戦苦闘していた彼女だったが、急に動きを止めたかった思うと、目を見開いてぼくの足元を見ているのだ。
「危ない!」
それに気が付いたとき、既に僕の体は傾いていた。
「わっわっわっ!」
必死に抵抗するも、重力には抗えず、いよいよ転ぶと思ったそのとき、僕の目の前にピンクの肉球。
とっさに掴むも時すでに遅し。
ぼくはまたもや坂を転がる。だけど不思議とデジャブは感じない。なぜなら今度は彼女も一緒だから。
止まると眼前に緑の葉。小さな虫が横切っていく。
「いったぁ・・・。もうなんてことしてくれるのよ」
さっきは助けようとしてくれた平手が、今度はぼくの背中を叩く。
そんな彼女にぼくはきくのだ。
「楽しくない?」
彼女は答えてくれなかったけれど、ぼくを叩いていたそれは草を払うものに変わっていた。
ぼくらは午後の川原を歩いた。ふたり並んで川原を歩いた。
なにかを見つけては彼女に見せる。
それはぼくの好きな花だったり、おさかなの形をした雲だったり。
立ち止まって川面を眺めていると、突然頭になにかがのっかる。
それはいろんな草でできたかんむり。花の匂いが鼻をくすぐる。
「これ、きみがつくったの?」
ななめうしろでほほえむ彼女にきいてみた。きみはうなずく。
「上手だね」
「むかし、よくつくってたのよ」
どこかを見つめて言う彼女。ぼくらの毛並みを揺らすそよ風は今もまだ吹いている。少し冷たくなったけれど。
「暇で暇で仕方ない?」
ぼくの質問に彼女は、ただこちらを見て笑う。ぼくがいちばんききたいことにはいつもなかなか答えてくれない。
あたたかなオレンジ色に染まった彼女の表情。水面で夕日が踊っている。
長い影を引き連れて、彼女は僕の横をすり抜けていった。
「帰っちゃうの?」
ぼくは彼女の背中にきいた。彼女は足を止め、ぼくを振り返る。
「わたしね、この時間がいちばん嫌いなの」
ぼくは黙って聞いた。
「今日もなにもなかったなって、そう思いながらお家に帰るの。だからいつもはすごく機嫌が悪いし、楽しくもなんともない」
そして期待してきいたんだ。
「今日は?」
・・・やはり、返事はなかった。だけど彼女の顔が、その答えを伝えてくれた。
その表情をもっと見ていたかったけど、彼女はきびすを返して帰ってゆく。
その姿が見えなくなるまで、ぼくは大きく揺れるしっぽを見ていた。

次の日も午後はやってくる。そよ風を連れてやってくる。
ぼくは暇をもてあましていた。
昨日となんにも変わらない、ただ晴れ渡る青い空。
それを見ていたぼくの目の前に、ちょうちょうが遊びにさそいにやってきた。
けれども追う気がしないのだ。お花に止まれと目でさとす。
ちょうちょうが止まったのは草花のかんむり。
昨日あの子がつくってくれた・・・
どうしてぼくは暇なのか。
かんむりを太陽にかざして考えた。
きっと、それはきっとあの子がいないせいだ。
ぼくは飛び起きた。
どこからか草を踏む音が聞こえてきたような気がしたからだけど、どこにもあの子の姿はない。
もいちど空を見上げたら、遠くでひときわ白い雲。
ぼくは芝生に駆け出した。
あの子を探して駆け出した。


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